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仕事と生活

  • 執筆者の写真: ThorouGraph
    ThorouGraph
  • 2018年12月17日
  • 読了時間: 3分

箸を持つ手が震え、蕎麦をまともに持ち上げることができない。


午前の撮影を終えて、恐縮ながら昼食をご馳走になっていた時のことだ。

なにも雲の上の御方が目の前にいて緊張していたわけではなく、

慣れない寒さに体が強張っていたわけでもない。

撮影が思いのほかハードで、右腕の筋肉が悲鳴をあげていたのだ。


撮影依頼はある牧場の代表からだった。

「小学生たちの通学路があまりに危険で、小学校の送迎バスが自分の牧場にも停まるよう

 要望を出したいので、危険な状況を伝えるVTRを制作してほしい。」

てっきり馬の撮影かと思っていたが意外な内容だったため、その詳細を訊ねた。


小学校から半径2km圏内の家に送迎バスは停まらない、というのがルール。

地図で見ると牧場は半径2kmより少し内側に位置している。

しかし実際の通学路は学校まで一直線なわけがなく2kmを超えているという。

頻繁に馬運車が通り、おまけに大型のミルクローリーやトラックも行き来する。

いわゆる産業道路で、歩道は整備されていない。

牧場スタッフは牧場敷地内の社宅や寮に住むことが多く、

来年小学1年生になる子供が2人いるのでなんとかしてあげたい、と。


そこでカメラを子供目線で構えて牧場から小学校までを実際に歩き、

真横を馬運車やミルクローリーが行き交う様子を撮影した。

距離を計測すると2.7km、撮影とはいえ大人で約40分の道のり。

3kg弱のカメラを手持ちで腰の位置あたりに固定して歩き続けた末に、

右腕の筋肉は悲鳴をあげた。

起伏もあり、雑草が生い茂り、車道を歩くこともあった。

晴天下での撮影だったが、雨が降ったら?冬の雪道は?

その過酷さは僕の想像を超えていた。


撮影前、牧場主は僕に

馬を撮るために北海道に来たのに、このような依頼をして大丈夫だろうか

と気を遣ってくださった。

もちろん、馬は被写体として僕を魅了している。

だけどそれと同じく、人と馬の関わりに僕は魅力を感じている。

人が馬を、馬が人を理解しようとする日々を見つめていると、

どれほど理解し合えているかは僕にはまだ分からないが、

そのような姿を目にすると心が動く。


生き物を相手にする仕事からか、

馬の仕事をする人たちの仕事と生活は、とても密接しているように感じる。

だからこそ、牧場主はスタッフの仕事以外のサポートを惜しまないし、

常に気を配っている。

少しでもそのサポートの力になれば、という気持ちで撮影に挑んだ。


北海道で馬の仕事をするということは、当たり前だが北海道で生活するということだ。

仕事と生活を分けて考える事自体が不自然ではないか、

当たり前のことをどう捉え、どう向き合うか、今回の撮影で学ばせていただいた。



後日、電話から聞こえてきたのは、

来週から送迎バスが牧場前に停まることになった、という喜びの声だった。



さあ、これから僕は初めて、北の大地の冬をむかえる。






 
 
 

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